
dカード GOLD「2026年度 年間ご利用額特典クーポン」を眺めていたら、企業の営業会議が見えてきた。
イナン教授の市場観察室
毎年この時期になると、
dカード GOLDの年間利用額特典クーポンが届く。
「今年は何をもらおうかな。」
この瞬間だけは少し楽しい。
一万円分の特典。
何か自分へのご褒美でも選ぼうか。
そんな気持ちになる。
実は数年前、この特典で九千円ほどのステッパーを交換したことがある。
ちょうど運動を始めようと思っていた時期だった。
「特典で欲しかった物が手に入った。」
あの時は、とても満足感があった。
だから今年も少し期待していたのである。
ところが、交換ページを開いて五分ほど経つと、私は商品を探すのをやめていた。
代わりに見始めたのは、
企業の仕組みだった。
交換先は実に豪華だった
今年も交換先はたくさん用意されている。
- レストラン
- ソニーストア
- マネックス証券
- ふるさとチョイス
- My Kao Mall
- d fashion
- dブック
- Leminoプレミアム
- スマホアクセサリー
- ケータイ購入割引クーポン
- 高島屋グルメ
- スポーツくじ など
見た瞬間は、
「おぉ、いっぱいあるな。」
と思う。
服もある。
レストランもある。
家電もある。
旅行好きなら楽しそうだ。
投資を始めたい人には証券会社もある。
ふるさと納税をする人には、その入口もある。
本当に種類は豊富だった。
しかし私は、いつもの癖が出てしまった。
「これ、本当に一万円分使えるんかな。」
そこから、一つずつ条件を見始めたのである。
イナン教授、調査開始。
私は昔から、こういうものを見ると調べたくなる。
決してケチだからではない。
もちろん、得するのは好きである。
しかし、それ以上に好きなのが、
「仕組みを見ること」
なのである。
だから私は、
一つひとつ交換ページを開き始めた。
服はどうだろう。
レストランはどうだろう。
証券会社はどうだろう。
ふるさと納税はどうだろう。
気付けば私は、
買い物ではなく市場調査を始めていた。
イナン教授の研究が始まる瞬間である。
最初に見えてきたもの
調べ始めて十分ほど。
あることに気付いた。
「あれ?」
「これ、交換先は違うけど、みんな同じ方向を向いてへんか?」
レストランも。
ファッションも。
証券会社も。
オンラインショップも。
一つひとつは全く違うサービスなのに、
なぜか同じ匂いがする。
その瞬間、
私は商品を見るのをやめた。
企業の営業会議を想像し始めたのである。
「なるほど……。」
「そういうことか。」
今年の特典は、
商品を選ぶイベントではなかった。
企業が、
それぞれ自分のサービスへ案内する、
小さな入口の展示会だったのである。
交換先は違っても、設計思想はほとんど同じだった
営業会議を勝手に想像しながら、
もう一度一覧を眺めてみる。
すると、
少しずつ共通点が見えてきた。
交換先は違う。
しかし、
設計思想はほとんど同じなのである。
まず、一万円をそのまま使わせない。
最初に気付いたのがこれだった。
一万円分のクーポン。
そう聞くと、
一万円分の商品と交換できるような気がする。
ところが実際には、
二万円以上の商品に使えるものが多い。
つまり、
一万円は企業が負担する。
もう一万円は利用者が負担する。
企業としては極めて自然な販売方法である。
特典を渡しながら、
売上にもつなげることができる。
なるほど。
よく考えられている。
次に、一万円以内の商品をあまり置かない。
「じゃあ一万円の商品を探そう。」
そう思って見始める。
しかし、
なかなか見つからない。
二万円。
三万円。
五万円。
欲しい物はある。
しかし、
自然と持ち出しが発生する価格帯になっている。
もちろん、
企業からすれば当然である。
ただ私は、
商品よりも、
この価格設計ばかり見てしまった。
さらに、その先がある。
もう一つ面白かった。
交換したら終わりではないのである。
証券会社なら口座。
通販なら会員。
サブスクなら継続利用。
特典は、
ゴールではない。
入口なのである。
企業は、
商品を配っているようで、
新しいお客様とも出会いたい。
私は思わず、
営業会議を想像してしまった。
「せっかく来てもらえるなら、
サービスも知っていただきましょう。」「登録していただければ、
また利用していただけるかもしれません。」「特典だけで終わるのは、
少しもったいないですね。」
もちろん、
私の勝手な想像である。
しかし、
そんな会話が聞こえてきそうな一覧だった。
花王だけ、少し違った。
そんな中で、
一つだけ立ち止まった交換先があった。
My Kao Mallである。
ここでは、
一万円分の商品セットと交換できる。
「あれ?」
「持ち出しがない。」
私は思わず二度見した。
もちろん条件はある。
会員登録が必要だった。
なるほど。
ここも入口はある。
完全に何も条件がないわけではない。
しかし、
少なくとも追加でお金を払う必要はない。
私は少し考えた。
「まあ……会員登録だけで済むならええか。」
正直、
届いたら退会するつもりである。
企業には申し訳ないが、
これも消費者の自由だろう。
そうして私は、
部屋干し用洗剤のセットと、
自動ハンドソープのセットを選んだ。
最初は笑った。
「洗剤とハンドソープで一万円?」
しかし価格を調べると、
意外と高い。
しかも、
どうせ買う日用品である。
派手さはない。
しかし、
私には一番納得できる選択だった。
花王が一番好きだったわけではない。
最後まで条件を見比べた結果、
一番条件が少なかったのである。
人によって「お得」は違う。
ここまで読むと、
「結局、企業は囲い込みたいだけじゃないか。」
と思う人もいるかもしれない。
しかし、
私はそうは思わなかった。
企業には企業の事情がある。
現金同然の一万円を、
そのまま配るだけでは商売にならない。
新しいサービスを知ってもらいたい。
会員になってもらいたい。
商品を使ってもらいたい。
そう考えるのは、ごく自然なことである。
一方で、
利用する側にも自由がある。
私は、
レストランも少し見た。
「せっかくだから、美味しいものでも食べようかな。」
とも思った。
しかし、
予約をして、
予定を合わせて、
外へ出る。
私はインドア派である。
そこまでして行きたいかと言われると、
今回は違った。
服も見た。
バッグも見た。
「おっ、これええやん。」
と思う物もあった。
しかし、
半額分しかクーポンが使えない。
結局、
持ち出しが発生する。
証券会社も見た。
しかし、
私はすでに利用している証券口座がある。
新しく作る理由は見つからなかった。
ふるさと納税も悪くない。
しかし今回は、
そこまで気持ちが向かなかった。
そうやって、
一つずつ消していった結果、
最後に残ったのが花王だったのである。
決して、
花王だけを狙っていたわけではない。
最後まで比較した結果、
自分には一番合っていた。
それだけの話である。
「お得」は、人によって違う。
私は今回、
日用品を選んだ。
しかし、
これは私にとってのお得である。
レストランへ行くのが好きな人なら、
食事券の方が価値は高いだろう。
服が好きな人なら、
d fashionを選ぶだろう。
投資を始めたい人なら、
証券会社が一番魅力的かもしれない。
だから、
「これが正解。」
というものはない。
他人の一番ではなく、
自分の一番を選べばいい。
私は、
どうせ買う日用品が無料になった。
それだけで十分満足だった。
イナン教授の研究メモ
企業は、
特典を配っているのではない。未来のお客様との出会いを作っているのである。
一方、
消費者も観察している。どこで持ち出しが発生するのか。
どこで会員登録が必要なのか。
本当に自分に合っているのか。
企業が考えるように、
消費者も考える。だから私は思う。
特典に正解はない。
あるのは、
自分の嗜好と、
自分なりのお得感だけである。せっかくもらえる特典なのだから、
他人に合わせる必要はない。自分が一番納得できるものを選べば、
それが一番価値のある特典になる。
今年の私は、
部屋干し用洗剤と、
自動ハンドソープを選んだ。
派手ではない。
しかし、
数か月後、
洗剤を買わなくて済むたびに思い出すだろう。
「あの時、これにして正解やったな。」
そんな特典も、
悪くない。