昔々あるところに、 “無料” という言葉に少し弱いおばあさんと、 タダならとりあえず喜ぶおじいさんがおりました——。
ある日のこと。
おばあさんのスマホに、 こんな広告が現れました。
「今なら一ヶ月無料☺️」
動画。 音楽。 電子書籍。
おばあさんは、 少し悩んだあと、 静かに言いました。
「……試すだけや☺️」
それが、 始まりだったのです——。
最初の数日は、 楽しかったのでした。
映画。 ドラマ。 昔のアニメ。
おじいさんも、 のんびり観ておりました。
しかし一週間を過ぎた頃から、 おばあさんの様子が、 少し変わり始めました。
「あと二週間しかない☺️」
「まだ三本しか観てへん☺️」
気づけばおばあさんは、 “元を取る” ことを考え始めていたのです——。
その夜。
おばあさんは、 あまり好みではなさそうな映画を、 真顔で観ておりました。
暗い画面。 重たい空気。 三時間超え。
おじいさんは、 横で心配そうに聞きました。
「……おもろいんか?」
おばあさんは、 少し疲れた顔で答えました。
「観な損なんよ☺️」
しかしその頃にはもう、 “観たいから観る” ではなく、 “無料期間を消化するために観る” へ変わっていたのです——。
さらにおばあさんは、 倍速再生まで始めました。
「時間ないんよ☺️」
おじいさんは、 静かに固まりました。
「急いで観る映画って、 何なんやろなぁ……」
そして無料期間最終日。
おばあさんは、 深夜まで画面を見つめながら、 静かにつぶやきました。
「……もう一本いける☺️」
翌朝。
自動更新された通知を見ながら、 おばあさんは、 少し遠い目をしておりました——。
「無料ほど、 高いもんはないんよ☺️」
そうして今日も村では、 “お得” という名の疲労が、 静かに積み重なっていくのでした——。