昔々あるところに、 毎朝やたら準備に時間のかかるおばあさんと、 それを静かに待っているおじいさんがおりました——。
おばあさんは最近、 “作り込みナチュラル” というものに夢中でした。
「気合いが滲むとダサいやろ☺️」
そう言いながら、 今日も鏡の前に座り込み、 静かに作業を始めます。
まずは下地でした。
透明感下地。 血色感下地。 毛穴ぼかし下地。 ツヤ下地。
それらを順番に塗り重ねながら、 おばあさんは、 うんうんと頷いておりました。
「今は、 “頑張ってない感じ” が大事なんよ☺️」
しかしおじいさんには、 その違いがまったく分かりません。
「そんなに頑張っとるのに、 頑張ってない感じなんか……?」
おばあさんは、 答えませんでした。
その代わり、 眉毛を一本ずつ描き始めたのです——。
「今は、 毛流れが大事なんよ☺️」
一本。 また一本。
気づけば、 一時間が経っておりました。
おじいさんは、 玄関で冷めたお茶をすすりながら、 静かに待っていたのです——。
「……まだかのう」
おばあさんは、 クッションファンデを顔へ押し付けながら、 遠くを見つめておりました。
「やっぱり、 透明感が大事よねぇ☺️」
おじいさんは、 しばらく考えたあと、 静かにつぶやきました。
「透明なのに、 なんで塗るんやろなぁ……」
しかしおばあさんは、 その問いには耳を貸しません。
自然体。 抜け感。 無造作。 こなれ感。
それらを追い求めるうちに、 おばあさんの化粧品は、 静かに増えていったのです——。
そして三時間後。
ようやく準備を終えたおばあさんは、 鏡を見ながら、 満足そうに言いました。
「今日は、 なんもしてへん感じにしといた☺️」
おじいさんは、 その言葉を聞きながら、 静かに空を見上げました。
“人類は、 どこへ向かっとるんやろなぁ……”
そうして今日も、 作り込みナチュラルは、 静かに完成していくのでした——。