鬼は、子どものそばにいた。
広場でも、空き地でも、帰り道でも、鬼はいつの間にか混じっていた。
子どもたちにとって、それは不思議でもなんでもなかった。
夕焼けや風と同じくらい、自然なことだったのだろう。
「将来なにになる?」
ある日、子どもたちはそう言って夢を語り合った。
「わたし、ケーキ屋さんになる!」
「ぼく、宇宙飛行士!」
「ぼくな、うどん屋やるねん。めっちゃコシ強いやつ作る!」
鬼は、いちいち大喜びした。
「おぉー!ええやんけ!」
「めっちゃ美しいでー!」
何がそんなにうれしいのか、子どもたちにはよくわからなかったはずだ。
けれど鬼は本気だった。
できるかどうかではない。叶うかどうかでもない。
ただ、その瞬間、その子が胸を張って未来を口にしていること自体が、鬼にはたまらなく愛おしかったのだ。
その中に、一人だけ少し変わった子がいた。
まじめで、観察することが好きで、
ほかの子が夢を大きく広げる中、彼だけは少し考えてから言った。
「〇〇先生は、僕の日誌に対して、七行ものコメントを書いてくれるんです。
だから僕は、先生になりたいです」
鬼はその子の言葉にも、しみじみとうなずいた。
「……おぉ。
それも、めっちゃ美しいでー」
ところが、その光景を見ていない者がいた。
親たちである。
ある日、子どもの一人が母親に向かって言った。
「鬼さんとしゃべってるねん」
すると母親は、少し困ったような顔で答えた。
「鬼? なにそれ。そんなのいないでしょ」
子どもは固まった。
そこにいる。たしかにいる。
自分には見えている。
なのに、大人には見えていない。
その違和感は、やがて不安になった。
「……大人になると、鬼が見えへんようになるん?」
鬼は、いつもの調子で笑った。
「見えへんようになってもな、お前の中にはちゃんとおるで!」
けれど子どもは、なおも心配そうだった。
「……鬼さん、どこにも行かんといてな」
鬼はすぐに答えた。
「行かへん行かへん! お前らがおる限り、ずっとおるわ!」
その場では、みんな笑った。
けれど記録によれば、その時だけ、鬼は少しだけ曇った顔をしたという。
たぶん鬼は、知っていたのだ。
約束は、守れないかもしれないと。