【第4章】ポポは見ていた──ヨアナの光は、誰にも見えなかった。でも、ポポは知っていた。

第4章 知られてはいけない光

それは、
まだ「好き」と呼ぶには、
あまりにも曖昧なものだった。

けれど、
無視するには、
もう大きくなりすぎていた。

彼は、ヨアナを見ないようにしていた。

見てしまえば、
何かが変わってしまう。

今まで通りの自分で、
いられなくなる気がした。

だから、見ない。

できるだけ、視界に入れない。

名前も呼ばない。
近づかない。
関わらない。

――それで、済むはずだった。

でも、視線というのは、
そんなに都合よくできていない。

気づけば、
ふとした瞬間に、そっちを見ている。

何もしていないときほど、
意識は勝手にそっちへ流れる。

ヨアナは、相変わらず、静かだった。

誰かに話しかけることもなく、
笑うこともなく、
ただそこに、在り続けている。

でも、その「在り方」が、
なぜか引っかかる。

彼は、それを理解しようとした。

なんでや。
なんで、あいつなんや。

もっと、話しやすいやつもおる。
明るいやつも、面白いやつも、
いくらでもおる。

なのに、なんで――

考えれば考えるほど、
わからなくなった。

そして、その「わからなさ」が、
さらに彼を引き寄せていった。

ある日の放課後。

教室には、ほとんど人が残っていなかった。

彼は、忘れ物を取りに戻ってきただけだった。

それだけのはずだった。

扉を開けたとき、
ヨアナがいた。

ひとりで、ノートを書いていた。

窓からの光が、
机の上に落ちて、
その周りだけ、少しだけ静かに見えた。

彼は、立ち止まった。

声をかけることもできた。
気づかれないまま、戻ることもできた。

どちらも、選べた。

でも、どちらも選べなかった。

ただ、そこに立って、
その光景を見ていた。

ヨアナは、気づいていなかった。

ペンを動かしながら、
ときどき止まって、
また書いていた。

その横顔は、
誰にも見せていない顔だった。

彼は、そこで初めて思った。

「……あかん」

その言葉は、
ほとんど音にならなかった。

でも、はっきりと、自分の中で響いた。

「これ、見たらあかんやつや」

理由は、説明できなかった。

ただ、わかってしまった。

これは、
知られてはいけないものやと。

彼は、静かに扉を閉めた。

音を立てないように、
そっと。

何もなかったように、廊下に戻る。

でも、もう、何もなかったことにはできなかった。

ヨアナの姿は、
はっきりと、残っていた。

あの光も、
あの静けさも、
あの「誰にも見せていない顔」も。

そして何より、
それを見てしまった自分が、
消えなかった。

私は、見ていた。

彼が、
その光から目をそらすことを選んだ瞬間を。

でも同時に、
もう二度と、
完全には目をそらせなくなったことも。

知られてはいけない光は、
いちど触れた者の中で、
静かに、燃え続ける。

関連作品