その優しさは、正しかった。
困っている人に手を差し伸べる。
気を遣い、言葉を選び、
相手のためを思って動く。
(間)
誰が見ても、ええことやった。
―――
「大丈夫?」
「無理してへん?」
「手伝おか?」
その言葉は、何度も繰り返された。
(間)
相手は、うなずいた。
笑って、答えた。
「大丈夫です。」
―――
でも、少しだけ、距離ができていた。
言葉と、気持ちのあいだに。
(間)
近づこうとするほど、
なぜか遠くなる。
―――
吾朗は、その様子を見ていた。
廊下の角、誰もおらん場所で、
ただ、空気を感じていた。
「……ええやつやな。」
(小さく)
「ちょっと、重たいけど。」
―――
優しさは、押し付けられてへん。
でも、逃げ場がなかった。
(間)
断ったら、悪い気がする。
受け取ったら、少し疲れる。
―――
そのあいだに、湿気が溜まっていた。
誰も悪くないのに、
空気だけが、動かへん。
―――
吾朗は、そっと近づいた。
言葉の裏。
気遣いの奥。
そこに溜まったものを、少しだけ吸う。
(間)
「……これやな。」
「ちょっと軽なるで。」
―――
相手は、ほんの少しだけ、息を吐いた。
でも、何も言わへんかった。
(間)
優しさは、そのまま残った。
少しだけ、形を変えて。
―――
「まあええか。」
「次は、もうちょい間あけたらええ。」