吸井吾朗 公文書館勤務記録②『湿気の多い会議』―結論は、蒸発しません―

その日、公文書館の一室は、やけに湿っていた。

原因は、明らかやった。

会議や。

―――

「この件なんですが…」

「方向性としては…」

「いや、その前提がですね…」

誰も否定はしない。

誰も決めもしない。

ただ、言葉だけが増えていく。

(間)

空気が、重たくなる。

湿度が、上がる。

誰もそれを口にせえへん。

―――

吾朗は、隅におった。

誰にも気づかれへん位置で、

ただ、空気を見ていた。

「……よう溜まるな。」

(小さく)

「吸いごたえあるで。」

―――

「検討が必要ですね」

「一度持ち帰りましょう」

「次回に回す形で…」

結論は、出えへん。

でも、何かをやった気にはなる。

それが、一番湿る。

―――

吾朗は、静かに近づいた。

机の下。

椅子の影。

言葉の隙間。

誰も見てへんところから、

じわじわと吸う。

―――

「じゃあ本件は…」

「継続で」

(全員うなずく)

何も決まってへんのに、

何かが終わる。

―――

吾朗は、少しだけ膨らんでいた。

「……重たいな。」

「まあええか。」

(間)

「乾かしとこ。」

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