吸井吾朗 公文書館勤務記録③『結露する恋愛』―近すぎると、冷えるんや―

その恋は、近すぎた。

最初は、ちょうどよかった。

手の届く距離。

声がすぐ届く距離。

安心できる距離やった。

―――

「今、何してる?」

「どこおるん?」

「なんで返事遅いん?」

言葉は増えていった。

距離は、縮まっていった。

(間)

温度が、上がりすぎた。

―――

気づいたときには、

ガラスの内側に、水がついていた。

拭いても、また曇る。

拭いても、またつく。

それが、結露やった。

―――

「なんでわかってくれへんの?」

「ちゃんと言ってるやん」

言葉は届いているのに、

意味だけが、すり抜けていく。

(間)

触れすぎたんやと思う。

近づきすぎたんやと思う。

―――

吾朗は、窓際におった。

誰にも気づかれへんまま、

ただ、その水を見ていた。

「……冷えとるな。」

(小さく)

「でも、湿っとる。」

―――

二人は、まだ隣にいる。

でも、少しだけ、遠い。

ガラス一枚分だけ、遠い。

―――

吾朗は、指でなぞるように、

ゆっくりと吸い取った。

全部は、無理やった。

少しだけ、跡が残る。

―――

「まあええか。」

「ちょっとずつやな。」

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