吸井吾朗 公文書館勤務記録⑦『言わへん圧』―何も言わんほうが、重たいときもある―

その場は、静かやった。

誰も、何も言わへん。

―――

言うべきことは、あった。

気づいていることも、あった。

でも、誰も口にせえへんかった。

(間)

空気だけが、重たかった。

―――

「……」

視線が動く。

少しだけ逸れる。

それだけで、伝わる。

(間)

言葉より、はっきりと。

―――

誰かが、息を吸う。

でも、そのまま何も言わへん。

(間)

その繰り返しで、

空気が溜まっていく。

―――

吾朗は、その場におった。

壁際の、影みたいな位置で、

ただ、じっと見ていた。

「……よう黙るな。」

(小さく)

「その分、溜まるけどな。」

―――

何も起きてへんのに、

何かが積もっていく。

(間)

それは、誰のものでもないのに、

誰もが感じている。

―――

吾朗は、少しだけ近づいた。

言葉にならへん部分。

飲み込まれたままの何か。

そこに溜まったものを、そっと吸う。

(間)

「……これやな。」

「一番重たいのは。」

―――

空気が、ほんの少しだけ動く。

でも、誰も気づかへん。

(間)

「まあええか。」

「そのうち、誰か言うやろ。」

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