最初は、夢だと思った。
眠っているのか、起きているのか、
わからないまま、声だけが聞こえた。
「……よう耐えたな」
すぐ近くで、聞こえた。
目を開けた。
何も見えなかった。
暗闇のままだった。
「誰や」
声に出したつもりだったが、
ちゃんと出ていたのかはわからなかった。
喉が、うまく動かなかった。
「もうええで」
その声は、やさしかった。
ずっと前から、そこにいたみたいに、
自然に、そこにあった。
「もう、待たんでええ」
何を言われているのか、
すぐには理解できなかった。
でも、その言葉は、
体の奥に、すっと入ってきた。
「……来えへんのや」
声が、少しだけ、出た。
「そうや」
間を置かず、答えが返ってきた。
「誰も来えへん」
静かに、断言された。
否定はできなかった。
「お前はな」
声が、少し近づいた気がした。
「もう、終わってるんや」
その言葉に、何も返せなかった。
怒りも、悲しみも、
出てこなかった。
ただ、納得してしまった。
「でもな」
その声が、少しだけ柔らかくなった。
「終わり方は、選べる」
意味が、わからなかった。
「このまま、消えるか」
「それとも——」
一瞬、間があった。
その間だけ、
空気が重くなった気がした。
「残るか」
その言葉は、
重かった。
「残る?」
聞き返した。
「ああ」
声は、落ち着いていた。
「お前はな、まだ“残れる”」
意味はわからないのに、
なぜか、理解できた気がした。
「どうやって」
その問いに、少しだけ、間があった。
「簡単や」
次の瞬間——
声が、変わった。
「そのままじゃ、無理やけどな」
さっきまでのやさしさが、
消えていた。
低く、重く、
押しつけるような声になっていた。
「その体のままじゃ、終わるだけや」
息が、止まりそうになった。
「選べ」
今度は、はっきりと言われた。
「消えるか」
「残るか」
答えを待たれているのが、わかった。
考える力は、ほとんど残っていなかった。
でも、ひとつだけ、浮かんだ。
——まだ、終わりたくない。
それだけだった。
「……残る」
自分の声が、どこか遠くで聞こえた。
少しの沈黙のあと、
声が、笑った。
「そうか」
その声は、やさしかった。
でも、次の瞬間——
「ほな、やろか」
空気が、変わった。
体の奥に、何かが入り込んできた。
冷たくて、重くて、
でも、どこかでなじむような感覚だった。
息が、戻った。
体が、動いた。
目の奥に、光が差した気がした。
でも——
それは、前と同じものではなかった。
「ほらな」
声が、すぐそばで囁いた。
「お前、もう戻られへんで」
その言葉を、否定できなかった。