祠は、村の外れにあった。
山に入る手前、
人の気配が途切れる場所。
子どものころから、近づくなと言われていた。
理由は聞いたことがなかった。
ただ、そこに何かあるということだけは、
みんな知っていた。
その場所に、連れて行かれた。
大人が何人もいた。
誰も、大きな声は出していなかった。
静かだった。
静かすぎて、
自分の呼吸の音だけが、やけに響いた。
祠の扉は、思っていたより小さかった。
しゃがめば入れるくらいの高さしかなかった。
中は、暗かった。
誰かが言った。
「しばらく、ここにいろ」
その声は、
優しくも厳しくもなかった。
ただ、決まったことを伝えるだけの声だった。
理由は、言われなかった。
聞かなかった。
聞いてしまったら、
本当のことになる気がした。
背中を押された。
足が、勝手に動いた。
中に入った。
振り返った。
外には、大人たちの顔があった。
でも、その目は、
自分を見ていなかった。
どこか、もっと遠くを見ていた。
扉が、閉まった。
音は、重かった。
外の光が、一瞬で消えた。
暗闇が、残った。
最初は、すぐに開くと思っていた。
少ししたら、誰かが来て、
「もうええぞ」と言ってくれると思っていた。
そういうものだと思っていた。
時間の感覚が、わからなかった。
どれくらい経ったのか、
考えるのをやめた。
腹が減った。
喉が渇いた。
声を出した。
誰か、いる?
返事はなかった。
もう一度、声を出した。
聞こえてる?
何も返ってこなかった。
静かだった。
外の音も、ほとんど聞こえなかった。
たまに、風の音がするだけだった。
時間が経つにつれて、
声を出すことも減っていった。
どうせ、誰も来ないと思い始めた。
そう思ったとき、
何かが、少しだけ変わった。
「待つ」という感覚が、消えた。
代わりに、
「忘れられている」という感覚が、残った。
そのほうが、静かだった。
体が、重くなっていった。
目を閉じる時間が、増えていった。
意識が、途切れることが多くなった。
そのとき、
誰かの声が、聞こえた。
やっと、来たんか。
そう思った。
でも、その声は、
外からではなかった。
すぐそばで、聞こえた。
「……よう耐えたな」
その声は、やさしかった。
知らない声だった。
でも、なぜか、
ずっと前から知っているような気がした。
「もう、ええで」
その声が、
暗闇の中で、はっきりと響いた。