無意味連作劇『首相決戦』第十話 一本

ついに、その日が来た。

柔道。

長らく議論され、ランキングだけ先に上位に入っていた競技が、ようやく実施される。

会場は、これまでとは少し違っていた。

畳。

静かな香りが、空気に混ざる。

「……やっとか」

誰かが、呟いた。

その声には、わずかな期待が含まれていた。

選手――いや、首相たちが入場する。

全員、白い道着。

その中で、一人だけ。

やけに馴染んでいる人物がいた。

「……目が違うな」

観客席の誰かが、小さく言った。

その人物は、静かに前へ出る。

礼をする。

その動きが、やけに自然だった。

「……始め」

審判の声が落ちる。

次の瞬間。

動きが、見えなかった。

いや、見えていたのに、理解が追いつかなかった。

組み合う。

崩す。

流れるように――

「一本!」

声が、畳に響く。

一瞬だった。

あまりにも、あっけなかった。

会場が、静まり返る。

誰もが、今の動きを頭の中でなぞろうとする。

だが、再現できない。

ただ一つだけ、確かなことがあった。

――強い。

勝者は、ゆっくりと立ち上がる。

表情は、変わらない。

呼吸も、乱れていない。

静かに、相手に手を差し出す。

倒れた首相を、引き起こす。

一礼。

それだけだった。

歓声は、起きなかった。

代わりに、深い沈黙があった。

そして、その沈黙の中で。

誰もが思った。

――これは、ええな。

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