無意味連作劇『首相決戦』第十一話 はしゃぎの誘惑

柔道の試合は、静かに終わった。

あまりにも完璧すぎて、誰も何も言えなかった。

ただ、全員が同じことを感じていた。

――今の、すごかったな。

勝者は、控室に戻っていた。

誰もいない部屋。

静寂。

鏡の前に立つ。

自分の顔を見る。

変わっていない。

だが、内側が、少しだけ揺れていた。

「……よかった」

小さく、呟く。

その瞬間。

口元が、ほんのわずかに緩む。

――あ。

すぐに、表情を戻す。

だが、遅かった。

ドアが、静かに開く。

係員が立っていた。

「……今の、記録されております」

空気が、凍る。

「え?」

「規定により、試合後の挙動も審査対象です」

「いや、今のは……」

言い訳が、思いつかない。

なぜなら。

自分でも、少し嬉しかったからだ。

「……どうなりますか」

係員は、淡々と答えた。

「現在、協議中です」

その言葉は、やけに重かった。

後日。

公式発表が出た。

『本件は“はしゃぎ未遂”として扱う』

「未遂……?」

世界が、一瞬止まる。

「今回は警告とする」

安堵と、困惑が同時に広がる。

その日、世界はまた一つ学んだ。

喜びは、完全に消すことはできないが、
コントロールすることはできるのだと。

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