【無意味連作劇】鬼が見えた日 第二記録 鬼と子ども

鬼は、子どものそばにいた。

広場でも、空き地でも、帰り道でも、鬼はいつの間にか混じっていた。
子どもたちにとって、それは不思議でもなんでもなかった。
夕焼けや風と同じくらい、自然なことだったのだろう。

「将来なにになる?」

ある日、子どもたちはそう言って夢を語り合った。

「わたし、ケーキ屋さんになる!」
「ぼく、宇宙飛行士!」
「ぼくな、うどん屋やるねん。めっちゃコシ強いやつ作る!」

鬼は、いちいち大喜びした。

「おぉー!ええやんけ!」
「めっちゃ美しいでー!」

何がそんなにうれしいのか、子どもたちにはよくわからなかったはずだ。
けれど鬼は本気だった。
できるかどうかではない。叶うかどうかでもない。
ただ、その瞬間、その子が胸を張って未来を口にしていること自体が、鬼にはたまらなく愛おしかったのだ。

その中に、一人だけ少し変わった子がいた。

まじめで、観察することが好きで、
ほかの子が夢を大きく広げる中、彼だけは少し考えてから言った。

「〇〇先生は、僕の日誌に対して、七行ものコメントを書いてくれるんです。
だから僕は、先生になりたいです」

鬼はその子の言葉にも、しみじみとうなずいた。

「……おぉ。
それも、めっちゃ美しいでー」

ところが、その光景を見ていない者がいた。
親たちである。

ある日、子どもの一人が母親に向かって言った。

「鬼さんとしゃべってるねん」

すると母親は、少し困ったような顔で答えた。

「鬼? なにそれ。そんなのいないでしょ」

子どもは固まった。

そこにいる。たしかにいる。
自分には見えている。
なのに、大人には見えていない。

その違和感は、やがて不安になった。

「……大人になると、鬼が見えへんようになるん?」

鬼は、いつもの調子で笑った。

「見えへんようになってもな、お前の中にはちゃんとおるで!」

けれど子どもは、なおも心配そうだった。

「……鬼さん、どこにも行かんといてな」

鬼はすぐに答えた。

「行かへん行かへん! お前らがおる限り、ずっとおるわ!」

その場では、みんな笑った。
けれど記録によれば、その時だけ、鬼は少しだけ曇った顔をしたという。

たぶん鬼は、知っていたのだ。
約束は、守れないかもしれないと。

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