【無意味連作劇】鬼が見えた日 第四記録 見えなくなる声

笑いのあとには、静かな断絶がやってくる。

大人になった彼らは忙しかった。
数字を見て、効率を気にして、結果を求めていた。

鬼はそのすぐそばにいた。
昔と何ひとつ変わらず、手を振り、声をかけ、時にツッコミまで入れていた。

けれどもう、誰も振り向かなかった。

「なぁなぁ!」
「そんなんもええけどな!」
「違うってな、めっちゃええことなんやで!」

その言葉は、空気の中でほどけていった。

届かない。

見えていないのか。
聞こえていないのか。
それとも、見えていても、聞こえていても、無視することに決めたのか。

鬼にはわからなかった。

ただ、ある時ふっと口をついた。

「……見えてへんのか」

それは怒りではなかった。
悲しみとも少し違った。
長く一緒にいたものが、自分の不在にようやく気づいたような、静かな声だった。

それでも鬼は責めなかった。

「成長やな」

と、鬼は言った。

「ええやんけ。
それでええ。
お前らは、お前らで進め」

この部分の記録は、読みようによって残酷でもある。
鬼は見放されたのに、見放し返さない。
鬼の方が、人間よりずっと人間を尊重している。

大人たちは、もう鬼の姿を必要としていなかった。
綺麗事は通用しない。夢だけでは食べていけない。違いを尊ぶ余裕もない。
そうやって現実を積み上げていくうちに、
鬼の言葉は「届かない言葉」になっていった。

だが鬼は、それを敗北とは呼ばなかった。

「ほなな」

最後にそう言って、静かに去ったという。

ここで記録はいったん途切れる。

ただし、完全には終わらない。
最後の一頁には、別の筆跡でこう書かれている。

――そのあと、昔の光景が戻った。
――夢を語っていた、子どもたちの時間が。
――あのとき鬼が見ていたものが、もう一度だけ、街にあふれた。

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