【無意味連作劇】鬼が見えた日 第五記録 めっちゃ美しいで

鬼が去ったあと、街には静けさが残った。

ところが最後の記録には、不思議な場面が記されている。

時間が巻き戻るように、子どもたちが再び現れたというのだ。

あの頃のままの姿で、あの頃のままの声で。

「将来なにになる?」

その問いに、子どもたちは何度でも答える。

「ケーキ屋さん!」
「宇宙飛行士!」
「うどん屋!」

そして、あのまじめな少年もまた、照れながら言う。

「僕は、先生になりたい」

最初の記録より、ここではその場面が少しだけ詳しく記されている。
きっと記録者も、この時間を引き延ばしたかったのだろう。

まだ何者でもなく、だからこそ何にでもなれた時間。
損得や効率に換算される前の、きらきらした瞬間。

鬼が好んだのは、まさにその光だった。

記録によれば、その時、どこからともなく声がしたという。

「めっちゃ美しいでーーーーーー!!!」

鬼の声だった。

姿はもう見えない。
それでも声だけは、堂々と、うれしそうに響いた。

その直後、静かな笛の音が流れた。
そして一拍置いて、三味線ロックが炸裂したとある。

子どもたちは鬼のパンツ柄のスカーフを巻き、踊り狂った。
ただ美しいと思ったものを、理屈抜きで全身で祝福するように。

最後には、鬼も子どもたちも区別なく、皆が並んだ。
誰かが中央に立つのではなく、全員が同じ列に立っていたという。

そして客席の方を向き、揃って叫んだ。

「めっちゃ美しいでーーーーーー!!!」

これが、この連作劇の最終記録である。

鬼が実在したのかどうかは、今となってはわからない。
けれど、人の中にある輝きを見つけて大声で喜ぶ存在が、
この街にいた――そう信じたくなるだけの証言が、確かに残っている。

もしかすると鬼は、いなくなったのではない。

ただ、見えなくなっただけなのかもしれない。

そして、ときどき誰かの夢があまりにも無防備に光ったとき、
どこかでまた、あの声が響くのだろう。

「めっちゃ美しいでー!」

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