最後の一人が、コートに立っていた。
周囲は、外野で埋め尽くされている。
全員が、元首相だった。
そして今は、全員が敵だった。
「……えぐいな」
誰かが、外野で呟く。
返事はない。
そんな余裕は、もうなかった。
内野に残った首相は、ゆっくりと息を整える。
ボールを握る。
一度、目を閉じる。
――投げるか。
その一瞬の迷いを、外野は見逃さなかった。
ヒュン。
背後から、ボールが飛ぶ。
「っ!」
ギリギリでかわす。
すぐに振り向き、投げ返す。
一人、当たる。
だが、その直後。
別方向から、もう一球。
パシン。
音が、やけに大きく響いた。
沈黙。
「……当たりました」
審判の声が、静かに告げる。
その瞬間。
世界は、決着した。
誰も叫ばない。
誰も立ち上がらない。
ただ、ひとつの事実だけが、そこにあった。
勝敗が、決まったということ。
外野の一人が、ゆっくりと歩み寄る。
勝者だった。
静かに、立つ。
呼吸を整える。
そして。
ほんの一瞬。
口元が、緩みかけた。
その瞬間――
会場の空気が、凍る。
誰もが思った。
――やるなよ。
勝者は、止まった。
そのまま、表情を消す。
何もなかったかのように、一礼する。
静寂の中で、その動きだけが美しかった。
審判が、旗を上げる。
「……有効」
わずかな安堵が、会場を包む。
その日、世界はまた一つ学んだ。
勝つことよりも難しいのは、
勝ったあとに、何もしないことだと。