最初に声を上げたのは、若い記者だった。
「これは、本当に正しいのでしょうか」
会見場が、わずかにざわつく。
その問いは、シンプルだった。
そして、ずっと避けられてきたものでもあった。
「誰も死なない。確かに、それは良いことです」
記者は、言葉を選びながら続ける。
「しかし、それだけで、すべてを肯定していいのでしょうか」
沈黙。
誰も、すぐには答えられなかった。
「勝敗を、娯楽のように扱っていないでしょうか」
「国家の意思決定が、競技の結果に委ねられていることに、違和感はありませんか」
その一言一言が、空気を少しずつ揺らす。
だが、それでも。
強く否定する声は、上がらなかった。
「……では、どうすればよいと?」
別の記者が、静かに問い返す。
若い記者は、少しだけ考えた。
そして、答えた。
「わかりません」
その答えに、場が止まる。
「ただ、違和感がある、ということだけは確かです」
その言葉は、どこまでも正直だった。
会見は、そのまま終了した。
明確な答えは、出なかった。
しかし、その日を境に。
ほんの少しだけ、空気が変わった。
誰もが心のどこかで、思い始めていた。
――これで、本当にええんか。