鬼が去ったあと、街には静けさが残った。
ところが最後の記録には、不思議な場面が記されている。
時間が巻き戻るように、子どもたちが再び現れたというのだ。
あの頃のままの姿で、あの頃のままの声で。
「将来なにになる?」
その問いに、子どもたちは何度でも答える。
「ケーキ屋さん!」
「宇宙飛行士!」
「うどん屋!」
そして、あのまじめな少年もまた、照れながら言う。
「僕は、先生になりたい」
最初の記録より、ここではその場面が少しだけ詳しく記されている。
きっと記録者も、この時間を引き延ばしたかったのだろう。
まだ何者でもなく、だからこそ何にでもなれた時間。
損得や効率に換算される前の、きらきらした瞬間。
鬼が好んだのは、まさにその光だった。
記録によれば、その時、どこからともなく声がしたという。
「めっちゃ美しいでーーーーーー!!!」
鬼の声だった。
姿はもう見えない。
それでも声だけは、堂々と、うれしそうに響いた。
その直後、静かな笛の音が流れた。
そして一拍置いて、三味線ロックが炸裂したとある。
子どもたちは鬼のパンツ柄のスカーフを巻き、踊り狂った。
ただ美しいと思ったものを、理屈抜きで全身で祝福するように。
最後には、鬼も子どもたちも区別なく、皆が並んだ。
誰かが中央に立つのではなく、全員が同じ列に立っていたという。
そして客席の方を向き、揃って叫んだ。
「めっちゃ美しいでーーーーーー!!!」
これが、この連作劇の最終記録である。
鬼が実在したのかどうかは、今となってはわからない。
けれど、人の中にある輝きを見つけて大声で喜ぶ存在が、
この街にいた――そう信じたくなるだけの証言が、確かに残っている。
もしかすると鬼は、いなくなったのではない。
ただ、見えなくなっただけなのかもしれない。
そして、ときどき誰かの夢があまりにも無防備に光ったとき、
どこかでまた、あの声が響くのだろう。
「めっちゃ美しいでー!」