敗北は、静かに運ばれてきた。
木箱だった。
やたらと立派な、桐の箱。
「……これが?」
ある国の首相が、戸惑いながら尋ねた。
係員は、淡々と答える。
「はい。今回の戦利品となります」
「戦利品て……」
その言葉は、どこか浮いていた。
箱の蓋が、ゆっくりと開けられる。
中には、丁寧に包まれた布。
さらにその中から現れたのは――
「……まわし?」
空気が止まった。
「相撲の、です」
係員は誇らしげに言った。
誰も、すぐには反応できなかった。
「いや……これを、どうしろと?」
首相は、慎重に言葉を選んだ。
「文化的価値の高い品と聞いております」
「いや、それはそうやろうけど」
その場にいた全員が、同じことを思っていた。
――いる?これ。
だが、誰も口には出さなかった。
それが、礼儀だと思ったからだ。
「……ありがたく、頂戴する」
首相は、ぎこちなく頷いた。
その様子は、どこか滑稽で、そして妙に真剣だった。
後日。
そのまわしは、国立博物館に展示された。
説明文には、こう書かれている。
『首相決戦 第一回大会 戦利品』
来館者は、足を止める。
しばらく見つめる。
そして、だいたい同じ感想を持つ。
――ほんまに、これでええんか。
しかし、誰も否定しなかった。
なぜなら。
それでも、誰も死ななかったからだ。