無意味連作劇『首相決戦』第二話 はしゃいだら負け

道場の空気は、異様だった。

静かすぎる。

本来、世界が注目するような場には、もっとざわめきがある。
だがこの日は違った。

誰もが、声の出し方を忘れていた。

「……これ、ほんまに戦争なんか?」

誰かが小さく呟いたが、それもすぐに空気に溶けた。

第一試合が始まる。

向かい合うのは、二人の首相。

互いに一礼する。

その動きだけは、やけに美しかった。

「……始め」

乾いた声とともに、竹刀が動く。

速い。

予想していたよりも、ずっと速い。

「あれ、普通に強ない?」

実況が、つい本音を漏らした。

一閃。

パシン、と乾いた音が道場に響く。

「面あり!」

試合は、一瞬で終わった。

勝った首相が、一歩下がる。

――そのときだった。

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

世界中に、その声が響いた。

一拍、遅れて。

審判が、静かに旗を振った。

「――反則」

ざわめきが走る。

「勝者、失格。敗者の勝ちとする」

「え?」

道場の空気が、初めて崩れた。

「いやいやいや、今のはええやろ!」

観客席から声が上がる。

だが、審判は一切揺れなかった。

「ルールです」

勝ったはずの首相は、固まっていた。

「……あ」

自分の口を押さえる。

だが、もう遅い。

その横で、負けたはずの首相が、静かに立ち上がる。

何も言わない。

ただ、一礼する。

その姿に、わずかに拍手が起きた。

小さく、だが確かに。

「……これが、ルールか」

誰かが、呟いた。

その日、世界は知った。

勝つことよりも、難しいことがあるのだと。

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