ただ通っただけ。
ほんまに、ただ通っただけやったんよ。
駅前の路地。
猫が日なたで丸くなってて、
「あ、かわいいなぁ」って、
ただそれだけの気持ちで視線を向けたんや。
なのに──
⚡️「シャーーーー!!!!!!」⚡️
言うた。
……え、なんで……
こっち、なんもしてへんのに……
背中がゾワってなって、
胸の奥が「スン…」って静かになった。
たかが猫やで?
たかが威嚇やで?
でも、
「お前、近寄るな」って言われた感じが、
そのまま今日のわたし全否定されてるみたいで
……泣きそうやった。
人間関係で傷つくより、
知らん猫に拒否される方が、
ずっとグサッとくる日がある。
「お疲れさまです」とか
「頑張ってますね」とか
誰も言ってくれへん日でも、
猫はただ静かに丸まっててくれるだけで、
ちょっと救いやったんに……
それすら、今日の自分には
届かへんかったんやな、って。
靴の裏、
いつもより重かった。
でも足は止めずに歩いた。
あの猫、
たぶんまたどっかで昼寝してるんやろな。
明日は威嚇されませんように、って
願うのもちょっと悔しいから、
今日はもう、誰とも目ぇ合わさんとこ。
(了)