簿記詩 第八篇「事業主貸、やさしさの誤用」

あの人にコーヒーをおごった。
仕事仲間やけど、領収書はもらわんかった。

「経費にせんとこ。気持ちやし」
そうつぶやいて、レシートをポケットで丸めた。

その瞬間、帳簿には記されへん取引がひとつ生まれた。
事業主貸。──やさしさの誤用。

やさしさは、経費にならん。
けど、経費にできへんやさしさこそ、
いちばん高くつくもんやな。

私は帰り道、
その丸めたレシートをそっと広げてみた。
そこには数字よりも先に、
“ありがとう”のインクがにじんでいた。

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