無意味連作劇『首相決戦』第七話 静かな勝利

最後の一人が、コートに立っていた。

周囲は、外野で埋め尽くされている。

全員が、元首相だった。

そして今は、全員が敵だった。

「……えぐいな」

誰かが、外野で呟く。

返事はない。

そんな余裕は、もうなかった。

内野に残った首相は、ゆっくりと息を整える。

ボールを握る。

一度、目を閉じる。

――投げるか。

その一瞬の迷いを、外野は見逃さなかった。

ヒュン。

背後から、ボールが飛ぶ。

「っ!」

ギリギリでかわす。

すぐに振り向き、投げ返す。

一人、当たる。

だが、その直後。

別方向から、もう一球。

パシン。

音が、やけに大きく響いた。

沈黙。

「……当たりました」

審判の声が、静かに告げる。

その瞬間。

世界は、決着した。

誰も叫ばない。

誰も立ち上がらない。

ただ、ひとつの事実だけが、そこにあった。

勝敗が、決まったということ。

外野の一人が、ゆっくりと歩み寄る。

勝者だった。

静かに、立つ。

呼吸を整える。

そして。

ほんの一瞬。

口元が、緩みかけた。

その瞬間――

会場の空気が、凍る。

誰もが思った。

――やるなよ。

勝者は、止まった。

そのまま、表情を消す。

何もなかったかのように、一礼する。

静寂の中で、その動きだけが美しかった。

審判が、旗を上げる。

「……有効」

わずかな安堵が、会場を包む。

その日、世界はまた一つ学んだ。

勝つことよりも難しいのは、
勝ったあとに、何もしないことだと。

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