無意味連作劇『首相決戦』第六話 外野

コートは、思っていたよりも狭かった。

いや、正確には。

「首相が立つと、狭く見える」

そういうことだった。

白線が引かれた床の上に、各国の首相が並ぶ。

全員、スーツではない。

動きやすさを重視した、簡素な服装だった。

しかし、その姿が逆に異様だった。

「……なんでこうなった」

誰かが呟く。

誰も答えない。

審判が、ボールを掲げた。

赤いゴムボール。

軽い。
だが、その軽さが、妙に重く感じられた。

「――開始」

ボールが、宙に放たれる。

一瞬の静止。

次の瞬間、動きが爆発した。

「うわっ!」

「ちょ、待て!」

想像していたよりも、はるかに必死だった。

避ける。投げる。逃げる。

そのどれもが、妙にぎこちない。

だが、全力だった。

パシン。

乾いた音。

一人が、肩を押さえる。

「当たった……」

静かにコートを出る。

そして、外野に回る。

外野。

その存在が、この競技をややこしくしていた。

「……外から投げてええんか」

「ルール上は、可能です」

「いや、それは」

誰もが思っていた。

――これ、めっちゃ不利やん。

だが、止める者はいない。

なぜなら、それもまたルールだったからだ。

外野から放たれたボールが、静かに飛ぶ。

その軌道は、内野よりも正確だった。

「あっ」

一人、また一人と、外へ出ていく。

コートの中は、どんどん狭くなる。

やがて、最後の一人が残った。

息が荒い。

額に汗が滲む。

ボールを握る手が、わずかに震えている。

観客席は、静まり返っていた。

誰も笑わない。

誰も茶化さない。

ただ、見ていた。

世界は、この瞬間を見ていた。

首相が、ボールを投げるところを。

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