コートは、思っていたよりも狭かった。
いや、正確には。
「首相が立つと、狭く見える」
そういうことだった。
白線が引かれた床の上に、各国の首相が並ぶ。
全員、スーツではない。
動きやすさを重視した、簡素な服装だった。
しかし、その姿が逆に異様だった。
「……なんでこうなった」
誰かが呟く。
誰も答えない。
審判が、ボールを掲げた。
赤いゴムボール。
軽い。
だが、その軽さが、妙に重く感じられた。
「――開始」
ボールが、宙に放たれる。
一瞬の静止。
次の瞬間、動きが爆発した。
「うわっ!」
「ちょ、待て!」
想像していたよりも、はるかに必死だった。
避ける。投げる。逃げる。
そのどれもが、妙にぎこちない。
だが、全力だった。
パシン。
乾いた音。
一人が、肩を押さえる。
「当たった……」
静かにコートを出る。
そして、外野に回る。
外野。
その存在が、この競技をややこしくしていた。
「……外から投げてええんか」
「ルール上は、可能です」
「いや、それは」
誰もが思っていた。
――これ、めっちゃ不利やん。
だが、止める者はいない。
なぜなら、それもまたルールだったからだ。
外野から放たれたボールが、静かに飛ぶ。
その軌道は、内野よりも正確だった。
「あっ」
一人、また一人と、外へ出ていく。
コートの中は、どんどん狭くなる。
やがて、最後の一人が残った。
息が荒い。
額に汗が滲む。
ボールを握る手が、わずかに震えている。
観客席は、静まり返っていた。
誰も笑わない。
誰も茶化さない。
ただ、見ていた。
世界は、この瞬間を見ていた。
首相が、ボールを投げるところを。