笑いのあとには、静かな断絶がやってくる。
大人になった彼らは忙しかった。
数字を見て、効率を気にして、結果を求めていた。
鬼はそのすぐそばにいた。
昔と何ひとつ変わらず、手を振り、声をかけ、時にツッコミまで入れていた。
けれどもう、誰も振り向かなかった。
「なぁなぁ!」
「そんなんもええけどな!」
「違うってな、めっちゃええことなんやで!」
その言葉は、空気の中でほどけていった。
届かない。
見えていないのか。
聞こえていないのか。
それとも、見えていても、聞こえていても、無視することに決めたのか。
鬼にはわからなかった。
ただ、ある時ふっと口をついた。
「……見えてへんのか」
それは怒りではなかった。
悲しみとも少し違った。
長く一緒にいたものが、自分の不在にようやく気づいたような、静かな声だった。
それでも鬼は責めなかった。
「成長やな」
と、鬼は言った。
「ええやんけ。
それでええ。
お前らは、お前らで進め」
この部分の記録は、読みようによって残酷でもある。
鬼は見放されたのに、見放し返さない。
鬼の方が、人間よりずっと人間を尊重している。
大人たちは、もう鬼の姿を必要としていなかった。
綺麗事は通用しない。夢だけでは食べていけない。違いを尊ぶ余裕もない。
そうやって現実を積み上げていくうちに、
鬼の言葉は「届かない言葉」になっていった。
だが鬼は、それを敗北とは呼ばなかった。
「ほなな」
最後にそう言って、静かに去ったという。
ここで記録はいったん途切れる。
ただし、完全には終わらない。
最後の一頁には、別の筆跡でこう書かれている。
――そのあと、昔の光景が戻った。
――夢を語っていた、子どもたちの時間が。
――あのとき鬼が見ていたものが、もう一度だけ、街にあふれた。