その日、公文書館の一室は、やけに湿っていた。
原因は、明らかやった。
会議や。
―――
「この件なんですが…」
「方向性としては…」
「いや、その前提がですね…」
誰も否定はしない。
誰も決めもしない。
ただ、言葉だけが増えていく。
(間)
空気が、重たくなる。
湿度が、上がる。
誰もそれを口にせえへん。
―――
吾朗は、隅におった。
誰にも気づかれへん位置で、
ただ、空気を見ていた。
「……よう溜まるな。」
(小さく)
「吸いごたえあるで。」
―――
「検討が必要ですね」
「一度持ち帰りましょう」
「次回に回す形で…」
結論は、出えへん。
でも、何かをやった気にはなる。
それが、一番湿る。
―――
吾朗は、静かに近づいた。
机の下。
椅子の影。
言葉の隙間。
誰も見てへんところから、
じわじわと吸う。
―――
「じゃあ本件は…」
「継続で」
(全員うなずく)
何も決まってへんのに、
何かが終わる。
―――
吾朗は、少しだけ膨らんでいた。
「……重たいな。」
「まあええか。」
(間)
「乾かしとこ。」