その場は、静かやった。
誰も、何も言わへん。
―――
言うべきことは、あった。
気づいていることも、あった。
でも、誰も口にせえへんかった。
(間)
空気だけが、重たかった。
―――
「……」
視線が動く。
少しだけ逸れる。
それだけで、伝わる。
(間)
言葉より、はっきりと。
―――
誰かが、息を吸う。
でも、そのまま何も言わへん。
(間)
その繰り返しで、
空気が溜まっていく。
―――
吾朗は、その場におった。
壁際の、影みたいな位置で、
ただ、じっと見ていた。
「……よう黙るな。」
(小さく)
「その分、溜まるけどな。」
―――
何も起きてへんのに、
何かが積もっていく。
(間)
それは、誰のものでもないのに、
誰もが感じている。
―――
吾朗は、少しだけ近づいた。
言葉にならへん部分。
飲み込まれたままの何か。
そこに溜まったものを、そっと吸う。
(間)
「……これやな。」
「一番重たいのは。」
―――
空気が、ほんの少しだけ動く。
でも、誰も気づかへん。
(間)
「まあええか。」
「そのうち、誰か言うやろ。」