ひとり鬼 第二話「祠」

祠は、村の外れにあった。

山に入る手前、
人の気配が途切れる場所。

子どものころから、近づくなと言われていた。
理由は聞いたことがなかった。

ただ、そこに何かあるということだけは、
みんな知っていた。

その場所に、連れて行かれた。

大人が何人もいた。
誰も、大きな声は出していなかった。

静かだった。

静かすぎて、
自分の呼吸の音だけが、やけに響いた。

祠の扉は、思っていたより小さかった。
しゃがめば入れるくらいの高さしかなかった。

中は、暗かった。

誰かが言った。

「しばらく、ここにいろ」

その声は、
優しくも厳しくもなかった。

ただ、決まったことを伝えるだけの声だった。

理由は、言われなかった。

聞かなかった。

聞いてしまったら、
本当のことになる気がした。

背中を押された。

足が、勝手に動いた。

中に入った。

振り返った。

外には、大人たちの顔があった。

でも、その目は、
自分を見ていなかった。

どこか、もっと遠くを見ていた。

扉が、閉まった。

音は、重かった。

外の光が、一瞬で消えた。

暗闇が、残った。

最初は、すぐに開くと思っていた。

少ししたら、誰かが来て、
「もうええぞ」と言ってくれると思っていた。

そういうものだと思っていた。

時間の感覚が、わからなかった。

どれくらい経ったのか、
考えるのをやめた。

腹が減った。

喉が渇いた。

声を出した。

誰か、いる?

返事はなかった。

もう一度、声を出した。

聞こえてる?

何も返ってこなかった。

静かだった。

外の音も、ほとんど聞こえなかった。

たまに、風の音がするだけだった。

時間が経つにつれて、
声を出すことも減っていった。

どうせ、誰も来ないと思い始めた。

そう思ったとき、
何かが、少しだけ変わった。

「待つ」という感覚が、消えた。

代わりに、
「忘れられている」という感覚が、残った。

そのほうが、静かだった。

体が、重くなっていった。

目を閉じる時間が、増えていった。

意識が、途切れることが多くなった。

そのとき、

誰かの声が、聞こえた。

やっと、来たんか。

そう思った。

でも、その声は、
外からではなかった。

すぐそばで、聞こえた。

「……よう耐えたな」

その声は、やさしかった。

知らない声だった。

でも、なぜか、
ずっと前から知っているような気がした。

「もう、ええで」

その声が、
暗闇の中で、はっきりと響いた。

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